本研究の目的は、漢字を持たない文化圏における書の観賞について最重要とされる筆脈とデフォルメの感受を明らかにすることである。本稿では、様々な専門をもつドイツの大学生を対象に行った実験結果を、日本における同種の実験結果と比較する。考察の結果以下の結論を得た。
①書は、可読性が書き手と観賞者の間の共通項として重要な働きを持つ。しかし、一方で観賞者は読むことのできない文字に対しても、内的自己と照らし合わせて観賞することができる
②書き手の制作意識は「筆脈」により観賞者に感じ取られる。
③書作品は、障害のある書き手による場合でも作品自体の魅力によって観賞者の心をとらえる。
④書は、漢字文化圏を超えて世界に広がる可能性を持ったグローバルな芸術領域である。