Annual Reports of Misasa Medical Center, Okayama University volume73
2003-02-01 発行
心不全が比較的良好にコントロールされているのにもかかわらず,高齢の陳旧性心筋梗塞後患者等で脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の異常高値が持続する場合がある.今回,また超高齢の心不全患者で同所見を認めたので,考察を含めて報告する.
93歳高齢の陳急性心筋梗塞患者で,BNP1600-1200の著明な高値が持続した.主に心尖部と一部の前側壁の陳旧性心筋梗塞症であったが,利尿薬等による治療によって心不全はコントロールできており,救急入院時を除いては,鬱血性心不全の状態ではなかった.心願超音
波検査でも心内圧の上昇や下大静脈の拡張も認めなかった.利尿薬を増量するとむしろ脱水による腎機能障害の増悪を認めていた.
入院中に狭心痛を認めることがあり,心筋逸脱酔素の軽度の上昇を認めた.BNPの著明な高値持続は,陳旧性心筋梗塞後の心臓機能障害や左室肥大,僧帽弁閉頚不全等による慢性心不全・心負荷のための心筋でのBNP合成・分泌元進の他に,新たな小梗塞(非貫壁性心筋梗塞)や持続する無症候性の心筋虚血による心筋でのBNP合成・分泌亢進,高齢によるBNPクリアランスの低下と分泌の持続的亢進,慢性腎機能障害によるBNPクリアランスの低下,心筋障害後の心筋再構築(リモデリング)の訳節と心筋繊維化抑制の為に合成が元進していると考えられる.更に,いわゆる老人肺・慢性呼吸機能低下による右心系の負荷による心室からの分泌元進,ステロイドホルモン内服による鉱井コルチコイド作用,貧血,低栄養状態等の様々な要因が重なっているものと考えられた.
心臓でBNPの産生・分泌が亢進するのは,心不全に伴う全身の体液量バランスや血行動態等の悪化を改善,調節するためだけではなく,心臓自身のリモデリングの調節・抑制,再構築の調薪のため,さらには心臓・心筋の繊維化や拡張障害の増悪を抑制するための自己防衛
機構としても機能している.心臓は,単に循環系のポンプではなく,利尿ペプチドホルモンを分泌する内分泌器官でもある.
一般的に加齢に伴いBNPは上昇してくる.特に70歳以上の高齢者では顕著になる.考察ではその点についても新たな文献的考察も含めて報告し,高齢者のBNPの捉え方と治療についても述べる.