ハインリッヒ・フォン・クライストの小説『チリの地震』の結末には、亡くした子の埋め合わせとして、その死の元凶となった子を養子にする親の姿が描かれている。本稿は、この埋め合わせを始めとして小説でくり返される〈交換〉について考察したものである。『小説集』版で採用されている三段落構成に対応する形で、〈平等〉を描いた第二段落を中心に〈交換〉の不可能性と可能性が〈取り違え〉といった形で変奏されつつ対称的に表されている。身分の違いもなく誰もが〈平等〉となる状況を経て、通常〈交換〉不可能だと思われるもの、一個人でさえもが〈交換〉の対称となっている。