本稿は,海のシルクロードにおける太鼓文化の諸相を明らかにする研究の一部を成すもの
である。これまでに,拙稿「南インドの太鼓ミラーブの唱歌における伝承文化論」(山本
2012)と「海のシルクロードにおける太鼓文化(1)─南インド,ケーララの『音高可変太
鼓』イダッキャ」(山本2013)で,ミラーブmizhaavuとイダッキャitaykaという,それぞ
れが非常に珍しい形態および演奏技法を持つ太鼓について論じてきた。ミラーブとイダッキ
ャは,現在ではサンスクリット演劇のクーリヤッタムKoodiyattamの伴奏楽器として,とも
に同じ舞台で演奏をしている。しかし,その伝承を担うのは明らかに異なる世襲職業集団で
あった。ケーララという時空間を共有しながらも,このような伝承グループの差異は音楽文
化にどのような影響を与えているのだろうか。本稿では4つの太鼓の演奏の場と唱歌を比較
し,そこから見えてくる音楽文化の様相について考察した。