Okayama Economic Review
Published by the Economic Association of Okayama University

Online ISSN 2433-4146
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<研究ノート>第一次世界大戦前の岡山県の工業

下野 克已 岡山大学
抄録
本稿は1914年12月に岡山県が刊行した『大正二年岡山県統計書』を中心として,第一次世界大戦前の岡山県の諸産業および工業生産の状態とその中で倉敷地域の主として工業生産の特徴とを考察しようとするものである。ここで倉敷地域というのは,20世紀末期の倉敷市域に該当する地域部分を想定しており,従来の都窪郡の主要な部分と児島郡の西の部分と浅口郡の東の部分とを含んでいる地域を意味している。研究・執筆作業の遅い筆者なので完成までにはもう少し時間がかかるであろうが,本稿は次のような企図の下での一つの整理・分析作業である。 1989年から2005年まで『新修倉敷市史』の編纂と執筆を行うために組織された「倉敷市史研究会」の近代・現代部会に参加する機会を倉敷市によって与えられた筆者は,部会の一員として通史編3巻と資料編2巻との編纂作業に加わった。そして2004年3月刊行の『新修倉敷市史第6巻近代 (下)』と2005年3月刊行の『新修倉敷市史第7巻現代』とでは,第一次世界大戦期から2000年頃までの倉敷地域の工業・地場産業に関する部分を直接に執筆する機会が与えられた。全体像として完成させるためにはおそらくもう一つ別に20世紀初頭の岡山県と倉敷地域の工業生産とに関する研究ノートが必要になるのではないかと思っているが,それとあわせて本稿でも第一次世界大戦以前の20世紀初期の岡山県と倉敷地域の工業生産の状態を考察することによって,全体として『倉敷地域の20世紀の工業発展』(仮題)という形で研究をまとめていく作業を考えている。その主要な作業内容は,時期によっては全国統計である『工場統計表』も用いることがあるかもしれないが,すでに『新修倉敷市史』で行った『岡山県統計書』と『岡山県統計年報』とを中心にした統計数値などの整理・分析作業とそれを踏まえた歴史的な考察・叙述作業とを改めて検討・充実させることが,その主要な作業の内容となるであろう。 本稿の中心的な整理・分析作業の対象となっている『大正二年岡山県統計書』では,幸いなことに『新修倉敷市史第6巻近代(下)』の「第三章第一次大戦と近代産業」の主として「第一節 重化学工業の成長」で筆者が行った統計数値の整理・分析作業とほぼ同様な作業を行うことが出来る 様式(品目など細部では異なっているとしても)で記載されていた。残念ながら,それ以前の『岡山県統計書』ではとくに農業から工業にいたる産業別生産額とその総額が記載されていなかったり,工業生産の記載様式が異なったりしているために,別稿として予定している「20世紀初頭の岡山県の工 業生産」(仮題)では,やや異なった整理・分析が必要となるであろう。そこで本稿では,この『大正二年岡山県統計書』を中心としつつも明治40年代の『岡山県統計書』から工業生産物(以下では工業製品と記すことが多い)の生産価額に関する数値も補って,第一次世界大戦前の1910年前後の岡山県および倉敷地域に関係する3郡を中心とした産業別(この時期は農産物・畜産物・水産物・林産物・鉱産物・工産物とに別けてあった)生産物価額とその総額および主要な工業製品(この時期には水産物として記載されていた食塩も本稿では含めている)の生産価額の動向・特質を,整理・分析しようと考えている。 つまり本稿の第一の課題は,第一次世界大戦期以後の岡山県と倉敷地域とにおける各産業(農業・畜産業・水産業・林業・鉱業・工業の建設業を除いた第一次産業と第二次産業との諸部門)の生産額と主要製品を中心とする工業の生産額とで工業を中心とする産業生産の状態とを連続的・対比的に考 察することが出来るように,1909年から1913年までの第一次世界大戦直前の各産業の生産額と主要製品を中心とする工業の生産額とを整理・分析することである。そして第二の課題は,岡山県と倉敷地域とが第一次世界大戦期以後になると産業生産総価額において工業生産額が中心となるいわば「工業県」的状態の性格になっていくのに対して,第一次世界大戦直前のこの期間は農業生産額が中心である第一次産業の生産額がまだ過半数を占めているいわば「農業県」的状態の性格であったことを明確に整理・分析することである。
ISSN
03863069
NCID
AN00032897