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ID 7775
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7775
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著者
柴尾 学 岡山大学
抄録
チャノキイロアザミウマScirtothrips dorsalis Hood (アザミウマ目,アザミウマ科)はブドウの最重要害虫である。本研究では、ブドウにおける本種の発生生態および生態的特性を明らかにし、それをもとにして本種の各種防除手段の有効性を検討した。 以下に主要な結論を要約する。1.ブドウにおけるチャノキイロアザミウマの発生生態 (1)露地圃場における個体群の季節的変動と発生部位 本種成虫の初発生は5月上旬に認められたが、生息密度はわずかであった。その後、6月から成幼虫とも生息密度が増加し、7~9月に多発して9月下旬に減少した。本種の生息密度はネオ・マスカットがマスカット・ベーリーAより高く、推定生息個体数も多かった。新梢全体における本種の発生はネオ・マスカットでは副梢における発生に影響されたが、マスカット・ベーリーAでは8月下旬までは葉茎における発生に影響され、それ以降は副梢における発生に影響された。また、本種の生息密度はネオ・マスカットでは新梢の先端部および中央部で高かったが、マスカット・べーリーAでは新梢の先端部のみで高かった。分布様式は成幼虫とも個体を単位とした集中分布であった。(2)発生変動に及ぼす有用資源の影響 8~9月の本種の生息密度はネオ・マスカットがデラウェアより高かった。この原因として、デラウェアでは落葉がネオ・マスカットより早く、8~9月に始まったことと、8~9月のネオ・マスカットにおける副梢数がデラウェアより多かったことがあげられた。本種の生息密度はブドウの有用資源の量に影響されることが示された。(3)発生密度調査法の比較検討 洗浄法は必要抽出新梢数が調査可能新梢数より少なく抑えられ、発生密度調査法として直接見取り法より実用性が高いと考えられた。黄色粘着トラップによる本種成虫の誘殺は5~10月に認められ、7~9月の誘殺数が多かった。直接見取り法による成虫の生息密度と黄色粘着トラップによる誘殺成虫数、洗浄法による成虫の採集個体数と黄色粘着トラップによる誘殺成虫数との間にはともに有意な正の相関関係が認められ、粘着トラップ法は発生密度調査法として利用が可能と考えられた。また、洗浄法で採集された成虫の雌率は高く、粘着トラップ法では低かったことから、雌成虫は新梢に生息している個体が多く、雄成虫は飛翔活動により移動分散している個体が多いと考えられた。(4)越冬場所と越冬態 本種はブドウの樹皮や落葉、および土壌において主として成虫態で越冬することが示されたが、ガラス室内および露地圃場における越冬密度は極めて低かった。これは落葉樹のブドウでは新梢の枯死や落葉のために11月下旬~12月上旬に付近の常緑樹へ成虫が移動するためと考えられ、ブドウでは圃場内よりその付近の常緑樹、およびその落葉や周辺の土壌で越冬した成虫、または第一世代成虫が飛来することにより発生が始まると考えられた。(5)寄主間の移動分散 ブドウ圃場に隣接するイヌマキ防風樹のブドウ園場側と道路側に黄色粘着トラップを設置したところ、誘殺成虫数は道路側よりブドウ圃場側で多かった。本種成虫はイヌマキからブドウに向けて寄主間で移動分散していると考えられた。(6)捕食性天敵および寄生性天敵の発生変動 本種の捕食性天敵の候補としてカプリダニ類4種、ハナカメムシ類、ハダニアザミウマの発生を確認できたが、本種の生息密度に及ぼす影響は小さいと考えられた。卵寄生蜂アザミウマタマゴパチは9~10月に本種卵に対する寄生と羽化を確認したが、寄生率は低く、本種の生息密度に及ぼす影響は小さいと考えられた。(7)発育に及ぼす温度の影響 本種の産卵から孵化までの発育零点は9.5℃、有効積算温度は119.0日度であった。ブドウで飼育した場合の孵化から羽化までの発育零点は7.7℃、有効積算温度は181.8日度であった。以上より、産卵から羽化までの本種の発育零点は8.5℃、有効積算温度は294.1日度であった。(8)年間世代数と発生時期の予察 露地栽培ブドウにおける本種の年間世代数は9~10世代であると推定された。露地栽培ブドウでは黄色粘着トラップによる最初の成虫の飛来が250日度前後に認められ、550日度前後と850日度前後に2回の成虫のピークが認められた。それぞれ、越冬世代成虫、第一世代成虫および第二世代成虫の発生と考えられた。施設栽培ブドウにおける黄色粘着トラップの誘殺成虫数は4月上旬~5月中旬より増加し、12~3月の誘殺はほとんど認められなかった。施設栽培のブドウでは主として施設外からの成虫の飛来侵入により発生が始まると考えられた。2.ブドウにおけるチャノキイロアザミウマの防除 (1)被害解析 露地栽培デラウェアの果房における生息密度と被害との聞には6月中旬~7月中旬に有意な正の相関関係が認められ、この時期の生息密度の多少が被害に関与することが示唆された。 被害度20に対する果房当たり被害許容密度は6月中旬では0.8個体、6月下旬では2.0個体、7月上旬では3.5個体、7月中旬では4.0個体と推定され、密度は低かった。 また、黄色粘着トラップによる誘殺成虫数と被害との間にも6月中旬~7月中旬に有意な正の相関関係が認められた。被害度20に対する黄色粘着トラップによるトラップ当たり日当たり被害許容水準は誘殺成虫数が6月中旬では10.1個体、6月下旬では10.0個体、7月上旬では23.0個体、7月中旬では71.8個体と推定された。 ブドウにおいて黄色粘着トラップを設置することによって、防除要否を判断することが可能であると考えられた。 施設栽培ブドウでは本種の被害程度は低く抑えられ、これは落花直後から幼果期に本種が低密度で推移したためと考えられた。(2)殺虫剤散布による化学的防除 露地栽培デラウェアではペルメトリン剤の散布によって新梢では10日間、果房では30日間、幼虫密度の増加が抑制され、落花直後から1か月間に相当する6月中旬~7月中旬の生息密度を抑制することで被害程度は低く抑えられることが示された。また、露地栽培デラウェアでは本種の防除のため、一般的には5月下旬と6月中旬に殺虫剤を2回散布する必要があると考えられるが、本種の発生が少ない場合には6月中旬に殺虫剤を1回散布することで十分な密度抑制効果と被害防止効果が得られた。黄色粘着トラップによる誘殺成虫数と気象データによる有効積算温度の算出により本種の発生を把握し、ブドウの落花時期を考慮して適期 に防除を行う必要があると考えられた。現在のところ、各種殺虫剤による本種の密度抑制効果と被害防止効果は高く、薬剤抵抗性の発達は認められなかった。(3)新梢管理による耕種的防除 露地栽培ブドウにおいて副梢の切除管理によってブドウの有用資源量を抑制することで、本種の生息密度を低く抑えることができた。この方法はブドウにおける本種の総合的防除を補完する技術のひとつとして有効であると考えられた。(4) フィルム被覆による物理的防除 露地栽培ブドウにおいて酢酸ビニールフィルムを屋根掛け被覆することで、本種の生息密度を低く抑えることができた。この原因として、屋根掛け被覆によって成虫の飛来侵入が抑制されたことと、紫外線カットタイプのフィルムの被覆により成虫の行動が抑制された可能性が考えられた。屋根掛け被覆により被害が軽減される傾向が認められ、この方法はフドウにおける本種の総合的防除を補完する技術のひとつとして有効であると考えられた。
発行日
1998-03-25
出版物タイトル
資料タイプ
学位論文
学位授与番号
乙第3211号
学位授与年月日
1998-03-25
学位・専攻分野
博士(農学)
授与大学
岡山大学
学位論文本文
学位論文(フルテキストURL参照)
言語
Japanese
論文のバージョン
publisher
査読
不明