Okayama Economic Review
Published by the Economic Association of Okayama University

高齢者医療費の変動と格差に関する特徴と課題

Chino, Tetsuro
Abstract
少子高齢化の進展のみならず,疾病構造の変化,急速な医療技術や医学知識の発展など,医療分野を取り巻く環境条件の大きな変化によって,医療資源の配分は様々な影響を受ける。一般に,市場機構ではなく制度・規制を通じた非市場的な資源配分の仕組みが実施される領域では,環境条件の変化に対する対応が制度・規制の調整(つまり制度改革や規制の変更等)を通じて行われる。この調整が適切に実施されない場合,資源配分上および所得分配上の問題が深刻化することになる。医療分野のように環境条件の大きな変化のもとで,現行の医療制度を通じた資源配分は効率性のみならず,医療支出や負担の格差という所得分配上の問題も発生させることになった(Tokita, et al. (1997),知野(2005)(2006))。しかし,2006年6月には制度改革を目的とする医療制度関連法案が成立した。と くに本稿との関係では新たな高齢者医療制度が2008年に創設されることになる。現在,同法案の目的に沿って具体的な施策が検討・実施されつつある)。 本稿では新たな高齢者医療制度の導入に先だって,現行老人保健制度のもとにおける老人医療の格差問題とその課題について都道府県別の医療費データを中心に明らかにすることが目的である。それは次の3つの具体的な目的に関係する。第一に,本稿が対象とする都道府県レベルの分析について言えば,今後の改革では,都道府県が新たな高齢者医療費制度,医療費適正化政策,保険者機能などという点において重要な役割を担うことから注2),都道府県単位の研究成果が一層の重要性を有するようになるということである。第二に,今までの我々の一連の研究(知野(1998)(2003)(2005),Tokita, Chino, and Kitaki(1999),知野・杉野(2004))に関連したことであるが,本稿では介護保険制度が導入された2000年以降のデータを追加することによって,高齢者医療費の変動と格差に関する特徴と課題をあらためて検討するという目的がある。最後に,近年では医薬分業の進展が著しく,これを考慮したとき,高齢者の入院外診療に係る費用の都道府県レベルにおける変動と格差がどのような特徴と問題を有しているのかを検討することである。 論文の構成は次の通りである。1節では老人保健制度下における老人医療の負担の仕組みを説明した後,「老人医療費」の内容およびその費用の時系列的な推移を検討する。2節では「老人医療費」のうち診療費に限定して,高齢者の入院診療費と入院外診療費を取り扱う。それらの診療費について 都道府県レベルの変動と格差に関するデータの時系列分析を行ってその特徴と問題を明らかにする。3節では医薬分業の進展について検討し,高齢者の院外処方の薬剤費が都道府県レベルでどのような変動と格差が存在するのかを吟味する。4節では医薬分業を考慮して高齢者の入院外診療費に,その 院外薬剤費を加えた費用を検討する。この合計費用が都道府県レベルでどのような変動と格差が存在するのかを吟味する。
ISSN
03863069
NCID
AN00032897