下垂体prolactin(以下PRLと略す)は魚類からヒトにいたるまで,広くみとめられる系統発生学的に古いホルモンであり,その生理作用として魚類での電解質代謝,滲透圧調節,両生類での変態促進,爬虫類での成長促進,鳥類でのチーズ様嗉嚢乳の形成,哺乳類での乳腺発育などが知られている1).ヒトではPRLと成長ホルモンとの分離が困難であったが,1972年,Friesenら2)により初めてPRLが抽出純化され,その測定法としてradioimmunoassay法が確立された.以来ヒトにおけるPRLの作用機序に関する多数の研究が報告され, PRLには乳汁分泌作用の他に,性腺機能維持あるいは胎児肺の成熟促進作用3)などもあることが次第に解明されてきた.また,成人ではthyrotropin releasing hormone(以下TRHと略す)負荷によるPRLの分泌反応に関する多数の研究が報告され,性腺機能障害の診断のみならず,視床下部一下垂体系の障害部位の診断にも応用されるようになった(4)).一方,小児科学領域では,PRLの作用機序に関して,詳細な研究は,いまだ報告されておらず,PRLの成長あるいは性成熟などに及ぼす生理的意義についても不明の点が多い.本研究では,小児期におけるPRLの基礎値とTRH負荷による下垂体のPRL分泌予備能とを測定し,またこれと平行してluteinizing hormone releasing hormone(以下LH-RHと略す)の負荷による下垂体のluteinizing hormone(以下LHと略す)分泌予備能を測定し,小児の発育および思春期の性成熟に対するPRLの分泌動態について検討した.