昭和戦後期という現代日本への移行期において,道徳教育はどのような地域的展開をみたのか。本稿は,教育史研究の一環として,鳴門市の小学校教師が試みた道徳教育の研究と実践に関する一事例を検討し,その時代的・地域的特色を考察するものである。学校所蔵史料
の調査と関係者への聞き取りにより,①教師による「教育即道徳教育」という理念の探求,②教師が「教育」を狭く学校や授業の範囲で捉えない新たな観点を獲得していく模索,③そして自らの道徳教育の実践を地域や住民を含み込む活動へと開け広げていく到達,という教
師による試行と展開の過程が,1958 年の「道徳の時間」特設以前にあったことを明らかにした。